


金麦セレクション




-
福井だけで作られる「
紅映 」「梅」はわたしたち日本人にとってなじみの深い食材です。現在は全国各地で栽培が行われていますが、今回訪れた福井県は180年以上もの歴史を持つ梅の名産地。日本海側という寒さの厳しい土地で育てられた福井の梅は、ミネラルを豊富にふくみ、梅本来の味を色濃く残しているのが特徴で、戦時中は「青いダイヤ」とまで評され多くの人に愛されていたそうです。
-
そんな福井でのみ栽培されている梅が
「紅映 」と呼ばれる品種です。「種が小さく果肉が厚いのが特徴で、和歌山の最高級品種といわれる南高梅と勝るとも劣らない風味を持っているんです」。そう話すのは梅の里会館館長の奥村康宏さん。それでいて、福井の梅の生産量のうちの2割ほどしかないことから“幻の梅”とも呼ばれているのだとか。 -
奥村さんは紅映をいくつかのお店へ卸していますが、今回取材させていただく
「高野由平 商店」もそのうちのひとつ。高野由平商店はかつて宿場町として栄えた今庄 という地域にあります。玄関をくぐってひと声かけると、やわらかな雰囲気をもったお二方が現れました。紅映で甘露梅肉を作っている高野義昭さんと久子さんご夫婦です。 -
旅籠 から甘露梅肉の専門店へもともと高野さんのご先祖は、「宿場町」の名の通りこの場所で旅籠を営んでいました。甘露梅肉を作り出したのは江戸時代のことで、藩主が土産として持ち込んだ梅を加工し、宿泊客に振る舞ったのがはじまりだそうです。明治以降、鉄道の発達によって今庄が宿場町としての役割を終えたこともあって、旅籠は閉めてしまいましたが、当時の製法そのままに甘露梅肉は作り続けているのです。
-
甘露梅肉の製造を担っているのは、奥さんの久子さん。「先々代から梅肉作りは嫁の仕事なんです。作り方はすべて母に教わりました。無理はしなくていいから100年以上続いたこの味を守ってほしいと言われたんです」。母といっても実母ではなく、嫁と姑の関係。しかしそんなことを気にすることなく、まるで我が子のように可愛がってくれたと、久子さんは当時を振り返ります。そして、ご主人が会社に勤務して生活を支えてくれたからこそ、安心して甘露梅肉を作ることができたとも話してくれました。
-
梅の収穫時期の6月末になると、甘露梅肉作りがはじまります。久子さんは梅を注文するとき「なるべく大きく、よい香りがするものを」とお願いしているのだそう。それはつまり、発育がよく完熟したものを、ということ。完熟すると梅は傷むのも早くなるので、こうした細かな注文ができるのは地元ならではの特権といえるでしょう。
-
甘露梅肉作りは
土蔵 のなかで行われますが、これも母屋同様、当時のままの形を保っています。作業は大きな壺に、梅と砂糖を交互に敷き詰めていくところから。それが終わると壺のてっぺんに置き石を載せて密封させ、約一か月寝かせるのです。過去に金属やプラスチックの入れ物で試したこともあるそうですが、すぐに梅がダメになってしまったと久子さん。「壺が呼吸することで梅の命をつないでいるんでしょうね」。 -
一か月寝かせた梅は、梅と梅から出た果汁とに分けられます。そして、果汁はさらに寝かせること3年。徐々ににごりがとれ、
紅梅液 へと生まれ変わります。「時間がたてばたつほど味がまろやかになっていくんですよ」。出来たばかりの紅梅液をひしゃくでひとすくいすると、琥珀色の輝きとともにやさしい梅の香りがふんわりと漂います。当時と同じ材料と製法で
同じく3年寝かせた梅肉は、種をとる作業を行います。もちろんすべて久子さんの手作業。「これをやっていると、母と二人でやっていたときのことを思い出しますね」と久子さん。話の節々に出てくる母との思い出と、溢れ出す感謝の気持ち。久子さんとお母さんは、血のつながりこそないですが、きっと強い信頼関係で結ばれていたのでしょう。
種がとられ果肉のみになった梅に、紫蘇と生姜を混ぜ合わせしっかりと
撹拌 。その後、数日寝かせれば、甘露梅肉が出来上がります。「何も難しいことはやっていません。母から受け継いだことそのままなんです。ほんのちょっとだけ秘密がありますが、『あんまり人にいわんほうがいい』と母から口止めされているので」。久子さんはにっこりとほほ笑みながらそう話してくれました。できた甘露梅肉を小分けにし、シールを貼って箱詰めすれば商品の完成です。「やっぱり、食べておいしいといわれるのが、いちばんうれしい」と久子さん。100年以上も変わらぬ製法で作り続けられる甘露梅肉は、今日もそんな久子さんの思いとともに土蔵のなかでゆっくりと熟成を重ねています。
熟成期間は3年間。真心込めて作られた甘露梅肉
厚みがあり種が小さい「
<お取り寄せ連絡先>
高野由平商店
TEL・FAX 0778-45-0003